審査委員
● 八谷 和彦(先端芸術表現科准教授)、○ 伊藤 俊治(先端芸術表現科教授)、◎ 日比野 克彦(先端芸術表現科教授)、青野 和子(ハラ ミュージアム アーク 副館長/主任学芸員)
1978年 パリ生まれ
2007年 来日
2000年 ENSAAMA, Olivier de Serres(フランス国立高等工芸美術学校)、 環境、建築デザイン免状取得
2005年 École nationale supérieure des beaux-arts(パリ国立高等美術学校)、 DNSAP取得(フランス国家造形芸術免状)
2007年 INALCO / Langues’O (フランス国立東洋言語文化研究所)、 日本語・日本文化学士取得
2011年 東京芸術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻、修士卒業
主な個展
2008年 屋上庭園展、東京都現代美術館
2009年 ノーマンズランド展、東京
2012年 パリのシャトレ座で、ヨーゼフ・ハイドンのオペラ『Orlando Paladino』(騎士ローランド)のビジュアルデザイン全般を担当
主な受賞
2002年 デッサン賞、École nationale supérieure des beaux-arts(パリ国立高等美術学校)
2010年 オービュッソン国際タペストリー研究所、コンテンポラリークリエーションプロジェクトの第一賞を受賞
2012年 フランスの演劇、音楽、ダンス評論家会において2011-12年シーズンのビジュアルデザイン最優秀賞
眠れる英雄
この論文は、自分の芸術作品や研究を、影響のネットワークで位置づける試みである。より正確に言うと、今回私はニコラ・ブリオー(Nicolas Bourriaud)の「オルターモダン宣言」(Altermodern manifest)、『オルターモダン論』、そして『The Radicant』のエッセーの中から私の作品に適切な3つの主要なテーマを選んで、このテキストを構築するために配置した。その3つの概念は:多様性(diversity)、文化的放浪(cultural wandering)、およびコネクション(connections)である。
各章では、それぞれのテーマとの関連性によって選択された私の作品のをいくつか紹介する。私はまた、他の著名な思想家とブリオーのテーマを比較する。例えば、ジョルジョ·アガンベンの現代性の概念、エドゥアール・グリッサンのクレオール化の概念、マーシャル・マクルーハンのグローバルヴィレッジ等である。美術史家の思考とも比較する:ダニエル・アラスのマニエリスムについての思考、ユルギス・バルトルシャイティスのアジアと西洋の文化関係、やアンドレ・シャステルのグロテスク装飾の紹介、などである。
オルターモダニティ(altermodernity)とラディカント(radicant)の概念に関する基本的な情報を与えるイントロダクションに続いて、マニエラ(maniera)の概念を選んだ理由について説明する。現在はグローバル化の実験の時代である。もはやポストモダニズムの文脈ではなく、ブリオーが提案しているオルターモダニティという新たな時代に向かっていることを認識する時である。
この新たなモダニティと私の作品の関連性は何か?オルターモダンと呼ばれる特定の意図はないが、私はブリオーによって開発されたいくつかのアイデアに大きな関心をもち、自分の作品を時空レベルで位置づけることに役立て、その意味を強化する。
最初の部では、多様性の概念(diversity)と、私が歴史の異なる文化や時代のミックスに強い興味を持っていることについて述べる。エキゾティズムを介して、または単に東洋と西洋がお互いに様々な影響を与えあったことを認めてから、私の作品で多様性とクレオール化が偉大な重要性を持っていることを強調しようとする。ニコラ・ブリオーによると、クロード・レヴィ=ストロースは、彼のエッセイで単一文化の危険性を強調し、又ビクター・セガレンは多様性の審美(美学)の重要性を説明している。又、エドゥアール・グリッサンのクレオール化(creolization)やポップ・カルチャーへの関心を記した後、私の作品でどのように文化のミックスが行われているかについて述べる。
第二部は、時間と空間を介して、旅への関心、文化的な放浪の概念の重要性について説明している。また、不安定さの概念を介して自分の作品の中の儚さと虚栄心について話す。いくつかの類似点がブリオーの「一時的な分岐」(temporal bifurcations)とアガンベンの 「同時代」(contemporary)の間で確立されている。決してノスタルジックな態度ではない「同時代性」(contemporariness)のキー概念の一つは、時間と空間という異なる時代の対立との出会い、また自分の時代に存在する遅延(ディレイ)にある。
第三部は、記号のネットワークの中の接続と変位(displacement)の考え方についてである。その後、グロテスク模様と象形文字の構造について考察し、インターフォーム(interform)として芸術作品の概念とアプロプリエーション(appropriation)の概念について述べる。そして20世紀の思想家やルネサンスの芸術家たちによって強調されたように、器用人としてのアーティスト(bricoleur)やミックスの重要性について話す。マクルーハンのネットワーク上での考えや地球村についても述べる。それは、ゲームとしてのグロテスクの作り方や、考え方としてのマニエリスムを重要にしている私の作品の世界にエコーを生成する。
結論としては、歴史と遊ぶ楽しさについて述べ、私のマニエラ(maniera)の可能な進化について自分自身を問う。ドゥルーズが提案したように、私の思考と芸術プラクティスは、強度を増すのか、それとも拡張して進化するのか?
左:眠れる英雄(おおかみ) / 右:眠れる英雄(すごろく) 写真:金川晋吾