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村山 修二郎

MURAYAMA Shujiro

油画(壁画)研究領域

審査委員
● 中村政人(絵画科准教授)、○ 日比野克彦(先端芸術表現科教授)、◎ 坂口寛敏(絵画科教授)、芹沢高志(P3 art and environment統括ディレクター)


1969年 東京都生まれ
1994年 東京芸術大学絵画科油画卒業
2011年 東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻壁画修士課程修了
植物研究。地域植生リサーチ。植物に内在する、初源的な力を抽出した作品制作。近年は、植物(花・葉・実)を手で直接紙や壁に擦り付けて描く「緑画(りょくが/村山が考えた造語)」手法を考案し唯一無二の絵画で表現している。その他、植物を介した社会地域活動を主催しワークショップなども様々な地域で展開中。


植物を介したアート・コミュニケーションの実証的研究

−地域と人がつながる創造的プロセスの誘発−

〈 植物の引力[福島の蔵と東京の河原で地にある植物を使い描く/2013.10-11制作](Yuga Gallery/藝大〉東京都台東区/2013.12 〉

〈 植物の引力[福島の蔵と東京の河原で地にある植物を使い描く/2013.10-11制作](Yuga Gallery/藝大〉東京都台東区/2013.12 〉


なぜ今、地域に植生を介した芸術活動が必要なのか、2011年3月11日の東日本大震災、自然のもつ強大な力を見せつけられた時、人と自然の初源的な関係から今一度考え、どのように現代の中で先に進むのか。近代化した現代社会の中、大震災が起ったことが一つの切っ掛けとして、より自然と人とのコミュニケーションを取り、結びつきを意識し、今だからこそ先端的な発展と相応した初源的な在り方、生き方の本質を見極めていかなくてはならない。その中で、人にとって植物は直接的な食と酸素の供給と間接的な癒し心の豊かさを享受し、そこに日常にある文化芸術のもつ力と豊かさを重ねることで「植物を介したアート・コミュニケーション」が、これからの日常と未来に重要な役割を果たして行くことになると考える。

〈植物の映画:no-4道による光の雫(野外/藝大) 上野の森:緑画公開制作(立体工房/藝大) 植物の時間:(立体工房会場/藝大)

左から〈植物の映画:no-4道による光の雫(野外/藝大)/上野の森:緑画公開制作(立体工房/藝大)/植物の時間:(立体工房会場/藝大)〉


現代の生活環境に目を向けて見ると、近年の特有の病としては精神疾患による患者数も増え続けている。それは人にとって身近に緑がないことや、コンクリートに囲まれた閉鎖的な空間に蛍光灯などの光の中に一日身を置き、椅子に座り、電子機器に囲まれ、目の前には人工的な色彩しか見ることが出来ない。自然の色彩、香り、音、手触り、地から採りたての新鮮な食べ物などから遮断された日常から、人の精神性、潜在性の中に動物としての本能が、自然物や自然環境が必要であるという切実の問題として現代に浮かび上がって来た。人類の歴史の中で、自然豊かな環境から離れたところで生きて来たここ数百年あまりの中で、人の体や精神に何らかの影響が出始めて来た事実。
そんな現代の中で、人とその身の回りに植物や自然に関わる活動を存在させ、環境的なコミュニケーションをはかることで、実質的なものと精神的な心の開放を促す。そこに文化芸能と芸術により、人の内面の刺激による、さらなるコミュニケーションを誘発させ、心の豊かさを持つことの出来る日常を生むことは、現代人のこれからの社会には必要不可欠である。

美術史の時系列の中、今までに植物とかかわりのあるアートの変遷を探り、その中で、太古の時代の洞窟壁画から日本の縄文時代の古来の植物と人との関係などから、自然と共にあった生活の中の芸術の在り方を読み解く。また、日本の基層文化から日常の中での植物と人との関係の本質を導きだし、光をあてる。

〈 植物の映画[no-5壁による光の雫+樹皮緑画トレース](大浦食堂前壁/藝大)東京都台東区/2013.12 〉

〈 植物の映画[no-5壁による光の雫+樹皮緑画トレース](大浦食堂前壁/藝大)東京都台東区/2013.12 〉


自身の研究領域からは、植物に元来備わる、生き抜くために進化してきた色・形・初源的な生命の在り方と可能性を抽出させ、生存の根源である光が、植物に関わる作品を貫き、植物の力そのものを超えて行く表現を創出させる。自身の幼少期である1970年代の日本の自然環境の変換期から、自身の植物に関わる表現の源泉を探る。また、1999年に東京都心の墨田区に住み、一年あまりが経った時にふっと365日土の上を歩いていないことに強烈に気付かされた瞬間があった。それを切っ掛けに、幼少期の植物に関わる記憶が呼び覚まされ、今行っているすべての制作や活動の源になる。現代の中で気付かされた都市環境在り方を考察し、自然の必要性と芸術がそこに果たす役割の必然性を提示する。
近年の主な作品として、植物(葉、花、実)を手で、直接紙や壁に擦り付けて絵を描く手法を「緑画(りょくが)」と名付け、唯一無二の絵画作品として様々な地域で制作展示して来た。この手法も都心の中で、幼少期に雑木林の中で嗅いだ草の香りや葉の緑色としての記憶が鮮明に思い出したことからはじまった。まさに現代の中に、本能とでも言うのか必然と植物で絵を描く手法は生まれたと考える。電子機器に囲まれた生活の中で自然環境の消失や、木造の歴史ある街や文化の消失から、今まさに気づきとしてささやかであるが自然に目を向け、植物のもつ豊かさ素晴らしさを見つめ再考する時期なのである。

〈植巡り:ほおづえの木(運動場近く/藝大) 移動式路地園芸術:(美術館前通路/藝大) 緑画ワークショップ:(絵画棟裏/藝大)

左から〈植巡り:ほおづえの木(運動場近く/藝大)/移動式路地園芸術:(美術館前通路/藝大)/緑画ワークショップ:(絵画棟裏/藝大)〉


その他に、「植物を介した地域活動」として、ある地域の植生を徹底的にリサーチし、そこに生まれた地域独自の植生を読み取り、「地域植生と芸術・文化を介したコミュニティアートプロジェクト」を2007年から独自に主催・開催して来ている。その中でも、「植巡り(しょくめぐり)」プロジェクトは、アートに特化した植生場所見いだし見立て、いくつかのポイントをMAPにおとし紹介する企画は、2007年から毎年開催し、地域の中で植物を介したコミュニケーションにより、多くの方と今の環境を共有し、学びと気づきを誘発してきた。その他、植物に関わるワークショップも様々な地域で実践し、これまでの活動の結果と、参加者の言葉などから効果の分析しこれから有効な学びを探る。
現代の時代背景とこれまでの環境的見地を読み解くと、植物を介したアート・コミュニケーションが、今、必然と必要とされている。それは、未来に向けて生活そのものと生きることへの気づきを生み、人と地域と植物がさらなる密なコミュニケーションをもって豊かな環境の創出を行っていくのである。