脱却と融合-白の景色へ-
吉田 侑加
<脱却>は私の創作動機である。幼少期、私の表現手段の全ては、舞踊による美しい人間の表現、そして舞台の中心で、主役を演じることであった。舞台作品には、絶対的な主役が存在する。脇役は背景の一部として機能し、自己表現の隙は与えられない。さらに主役は、ほとんどの場合、美しい人間が美しい人間を演じ、舞台演出は、完全な人間を肯定する構図が大半である。一方で舞台裏を見ると、完全な人間になるために、人と人が妬み、足を引っ張り合う、主役争いが蔓延っている。私はその落差に、舞台から身を引く決心をした。
舞台での経験は、完全な人間への神話性、主役という絶対的存在に対する懐疑心を生み、それらから<脱却>することが、絵画制作への始まりとなった。舞台作品では成し得ない、主役と脇役の主従関係を覆す表現も、絵画の世界では可能だと言える。“人”、さらには中心にある“個”、そして絶対的な“主”に支配されない、対象同士の拮抗関係を生み出す表現を、本論文では<融合>と呼び、自身の制作の主軸に位置付ける。
<融合>とは、二つ以上のものが、結び付き、重なり、混じり合い、一つになることである。私にとって絵画制作とは、一個体の対象から要素を抽出し、対象同士に新たな関係性を与える作業である。近景と遠景の主従は脱却され、等価の重なりとして、動植物の支配構造は脱却され、同質の線として時に融和し、時に拮抗しながら、一つの<景色>を形づくる。
また、対象と対象の間に物質的な<白>を描き、本来ならば背景に成り下がる空間も、対象物と等価の存在感を放つように表現する。本論文において<白>は、物の固有性を打ち消し、鑑賞者に想像の余地を与える重要な色である。
本論文は3章で構成される。
第1章“人”からの脱却-景色へ-
第1章では、自身の舞踊経験から生じた、人間中心的な芸術表現への違和感を探る。人間中心的な表現の例として、第1節では舞台作品、第2節では西洋美術をとり上げ、またそれらに対して第3節では、人間中心的に展開しない日本の芸術表現を検証する。
第2章“個”からの脱却-白へ-
舞踊という身体表現から脱却した私は、絵画、そして日本画へと表現媒体を転じた。第2章では、自作品の制作過程を辿りながら、人のみならず、“個”という要素の脱却を図ったプロセスを論じる。第1節では、自作品において重要な指針となった長谷川等伯「松林図屏風」の空間表現を分析し、対象と背景という画面の主従から脱する方法を探る。第2節では、スケッチを行うことにより、一個体の対象物から脱し、対象間の関わり合いから、色、形、間の発想を得ていくまでの行程を述べる。第3節では、自作品における白の役割について説明する。白色を用いることによって、自作品は、固有色・特定の景色・個人的視野といった様々な“個”の要素から脱していく。
第3章“主”からの脱却-融合へ-
第3章では、脱却の末に辿り着いた、主従なく拮抗し合う表現、<融合>について解説を行う。第1節では多視点の融合、第2節では万物の融合、第3節では融合と白の景色について解説する。
舞台での経験は、完全な人間への神話性、主役という絶対的存在に対する懐疑心を生み、それらから<脱却>することが、絵画制作への始まりとなった。舞台作品では成し得ない、主役と脇役の主従関係を覆す表現も、絵画の世界では可能だと言える。“人”、さらには中心にある“個”、そして絶対的な“主”に支配されない、対象同士の拮抗関係を生み出す表現を、本論文では<融合>と呼び、自身の制作の主軸に位置付ける。
<融合>とは、二つ以上のものが、結び付き、重なり、混じり合い、一つになることである。私にとって絵画制作とは、一個体の対象から要素を抽出し、対象同士に新たな関係性を与える作業である。近景と遠景の主従は脱却され、等価の重なりとして、動植物の支配構造は脱却され、同質の線として時に融和し、時に拮抗しながら、一つの<景色>を形づくる。
また、対象と対象の間に物質的な<白>を描き、本来ならば背景に成り下がる空間も、対象物と等価の存在感を放つように表現する。本論文において<白>は、物の固有性を打ち消し、鑑賞者に想像の余地を与える重要な色である。
本論文は3章で構成される。
第1章“人”からの脱却-景色へ-
第1章では、自身の舞踊経験から生じた、人間中心的な芸術表現への違和感を探る。人間中心的な表現の例として、第1節では舞台作品、第2節では西洋美術をとり上げ、またそれらに対して第3節では、人間中心的に展開しない日本の芸術表現を検証する。
第2章“個”からの脱却-白へ-
舞踊という身体表現から脱却した私は、絵画、そして日本画へと表現媒体を転じた。第2章では、自作品の制作過程を辿りながら、人のみならず、“個”という要素の脱却を図ったプロセスを論じる。第1節では、自作品において重要な指針となった長谷川等伯「松林図屏風」の空間表現を分析し、対象と背景という画面の主従から脱する方法を探る。第2節では、スケッチを行うことにより、一個体の対象物から脱し、対象間の関わり合いから、色、形、間の発想を得ていくまでの行程を述べる。第3節では、自作品における白の役割について説明する。白色を用いることによって、自作品は、固有色・特定の景色・個人的視野といった様々な“個”の要素から脱していく。
第3章“主”からの脱却-融合へ-
第3章では、脱却の末に辿り着いた、主従なく拮抗し合う表現、<融合>について解説を行う。第1節では多視点の融合、第2節では万物の融合、第3節では融合と白の景色について解説する。
- 審査委員
- 手塚雄二 佐藤道信 吉村誠司 梅原幸雄
脱却と融合-白の景色へ-
Japanese Painting