「幸せ」は、人生の意味や存在意義を問う漠然とした大きなテーマであり、作者自身を含む一人ひとりにとって日常的に直面する現実的な課題でもある。博士課程での自由な時間や、多様な選択肢と向き合う中で、作者は自身の理想的な生活や「幸せ」のあり方について深く考えるようになり、本プロジェクトを始めた。
本プロジェクトでは、21人の参加者を対象にインタビューを実施した。インタビューで語られた各自の「幸せ」をもとに、作者自身の理解と想像を加え模様をデザインし、手描き友禅の技法でパネル作品として染め上げた。また、これらの模様を連続パターンにアレンジし、大型布地にプリントすることで、多様な「幸せ」を表現した。
参加者との対話を通じて、「幸せ」を測る尺度は各個人の中にあり、それぞれの異なる人生の軌跡や経験が土壌となって、そこから異なる花が咲くということが分かるようになった。そのため、プロジェクトの成果である「幸せ模様」は人それぞれ異なり、同時に幸せになる多くの可能性を提示してくれた。
なお、本プロジェクトは、作者が研究で提案した「内容的参加」という方法論を実践したものである。参加者はインタビューを通じて幸せに関する情報を提供し、それが染め作品の表現内容に反映されることで、作品と深く結びついた。また、友禅染の一点物からプリント布地への展開を試みることで、参加者の幸せ模様を日常生活へ還元する可能性を提示した。