陶芸|Ceramics

「陶𡑮」による割れた陶磁器の新たな造形表現
− アートプロジェクトを通して見えた割れた陶磁器の作品価値 −
布下 翔碁 | NUNOSHITA Shogo

審査委員:三上 亮 片山 まび 椎名 勇 小椋 範彦 秋元 雄史 日比野 克彦 豊福 誠
作品写真:「陶𡑮」による割れた陶磁器の新たな造形表現
embracing-damage

博士学位審査提出作品《embracing-damage》について

  「embrace」には抱擁するという意味があり、作品のタイトル《embracing-damage》はダメージを抱擁するという意味である。本作は、水蒸気爆発によって制作プロセスで割れた陶磁器を「陶𡑮(とうそく)」*1によって造形した作品である。
    陶磁器において割れることを予測することはできないため、この陶磁器で起きた水蒸気爆発も止むを得ない事態であった。しかし窯を操作していたのは私自身であり、この割れた陶磁器を目の前にして、作品が割れてしまったことに対する自責の念が生まれた。これらの割れた陶磁器は地面に落ちる前に柔らかいクッションのようなもので包み込んであげたかったという気持ちから、柔らかく包み込む形状を乾漆によって表現した。
    展示方法では工芸で一般的な展示台を選択せず床置きとしたのは、電気窯の扉を開けた際にバラバラと床にこぼれ落ちた陶磁器を柔らかい形状で受け止めた状況をイメージしたものである。会場全体は、水蒸気爆発した陶磁器の本来の形状から口縁部、中間部、底部に分類し、展開図的に構成した。また本作では、自然釉の色彩や流れを螺鈿装飾によって表現することで、陶磁器と漆の装飾が調和した表現を試みた。

*1「陶𡑮」とは、陶磁器と乾漆の造形が融合した作者の新たな造形技法である。「陶𡑮」の特徴は陶磁器と漆による従来の表現方法と比較して“造形”の融合がなされている点にある。「𡑮(そく)」とは乾漆の古語であり、造形における陶磁器と漆の対等な関係を示す意味を込めた。「陶𡑮」は陶磁器と乾漆が不可能な造形を相互に補完し、さらには相乗効果を生むもので、それによってこれまで相互に成し得なかった造形領域に踏み込んだ表現が可能となる。すなわち本技法は、「陶磁器と乾漆の造形が融合した表現技法であり、それらが相互に交差しつつ新しい造形として生み出されるもの」と定義できる。

会場写真

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