→工芸・陶芸
パイナップル王国

 ― 泥釉の制作及び現代陶芸の新表現

韓 蘊澤

→審査委員   
三上 亮
 片山 まび 豊福 誠

本論文において論述する主な内容は、世界観(後に説明する仮想のパラレルワールド)を焼き物を通し、展示空間に異世界を表現することである。そして、マキシマリズムを中心に装飾形式と材料の研究を行い、これまで培った知識や得意とする技術を用いて世界観をインスタレーションとして表現する作品研究を行う。私の目指す泥釉とは主に天然の粘土と鉱物を調合した釉薬である。釉薬は低融点の土を使用し媒融剤として少量の木灰や鉱物を用いて調合する。釉薬調合の知識は私のルーツでもある中国の伝統釉に手がかりを得ることができる。中国には鉄紅釉、油滴天目や虹彩天目等に泥釉を基礎として伝統的に用いている。また、釉薬に用いる粘土と鉱物は地域により様々あり、材料による特性が大きく作用する。そして、泥釉を用いた作品は多岐にわたるが、他の地域の材料を用いて復元することは非常に困難であるとも言える。私はこの地域による特性を生かした独自の質感が泥釉の魅力であると考える。
第一章は、卒業制作における根幹として、作者自身の生まれ育った場所の経験や留学をする中で得られた知識から生まれたパイナップル王国という仮想の国について説明を行う。
第二章は技法と素材について、泥釉と陶磁器を中心に説明を行う。使用する土については、土の特徴を生かし一つの作品でもより豊かな質感を表現するため、陶土と磁土を用いて制作を行う。そして、手びねりやタタラ作りなどの技法を用いて成形を試みる。
第三章は作品の制作工程について、修士時代の作品からの革新と焼成方法について説明を行う。そして、多様な素材を包括する作品を展示媒体として使用し新たな展示表現の模索を試みる。焼き物によるオブジェと銅版画の作品を一つの空間作品として展示し、新たな表現形態を確立することができると考える。展示方法は銅版画の作品をオブジェ作品の背景として用いて、私の世界観を展示空間を通し体感することができると考える。
  
博士卒業制作説明
タイトル:パイナップル王国
卒業作品の制作背景:
 私の世界観を構成する要素は様々あり、その一つに子供の頃からこの多様な文化、文明を持つ世界に対して興味を持っていたことが挙げられる。そして、文化、文明を構成する要素の一種として宗教というものが存在しそれぞれの世界観を持っている。それから、宗教という要素も私の世界観を表現する重要な役割を担っている。例えば仏教には三千世界という考えがある。古印度における世界観は千の小千世界が中千世界であり、千の中千世界が大千世界といった考えがある。また、キリスト教の聖書によると世界は円盤である世界平面論という考えも存在していた。そして、作家のひとり天文学者でもあったフラマリオンが1888で作製した挿し絵には、平面上の大地の端まで到達して天蓋から顔を突き出している旅行者を描いた作品がある。意味を簡潔に訳すと、氷山は地球を守りその外側はまた別の世界がある。というような意味がある。また、中国の昔の小説には桃源郷という理想を描いた世界も存在する。また、現在の物理研究の中に多元宇宙論、量子力学の多世界解釈とパラレルワールドの概念もある。このように人間の創造性をもって宗教や新たな考えが生み出され現実の世界に混在している。 多世界解釈からのインスピレーションも私の創造する仮想のパイナップル王国の考えとなっている。そして、陶芸の材料を用いてパラレルワールドであるパイナップル王国を表現することを目指した。テーマとなっているパイナップルは、多産、生命力などの意味をもった植物である。また、パイナップルは多くの種を持っている植物であり、パイナップルの頭の部分を切り取り、水に浸すことで新たに再生ができる。この現実における植物の性質が、私の目指す仮想の世界観との共通点を見出しテーマとした。
  
作品の構成:
空間表現する作品のひとつにメディアとして音を用いた作品を展示することがより重要と考える。また、焼き物によるオブジェは、宗教やその生活様式に関連した建物をモチーフとして制作し、銅版画の作品はパイナップル王国の世界観を説明する役割を持たせオブジェ作品との関係性からより世界観を明確に表現することができると考える。音の作品は穴窯焼成の際に出る炎の音を録音しインスタレーションとしての表現の幅を広げる。なぜなら、火は人類の生活に不可欠なものだけでなく、文明が始まる第一歩でもあると考えているからである。そして、陶器として重要な役割であると考える。また、メディア作品として展示空間に配置することで、鑑賞者がより作品の理解が進むと考える。展示空間は“回”の形にし、回りながら展示を見ることで、鑑賞者が私の世界観を体感ができる空間を演出できると考える。