design

表現のための活動プログラムをデザインする方法
表現の非専門家たちが表現の場をつくることを事例に

小原 真衣子

審査委員:
須永 剛司 藤崎 圭一郎 清水 泰博 渡辺 健太郎

 著者はこれまでに、表現の専門家ではない一般市民の人たちが参加する表現の場をつくる実践を行ってきた。ここでいう表現は、多くの人が日々の中で当たり前に行っている、発話や文字を書くといった広義の表現ではない。それは、省察を伴った表現行為から成る、共同的で社会的な活動(表現活動)である。このような表現活動がもつ営みの特性は、より豊かな社会づくりの原動力にすることができると著者は考えている。

このような活動を実現するには、表現のための道具に加え、誰が、いつ、どこで、何をどうやるのか?という、表現することを目的とする計画 programが不可欠である。これは、デザイナーが一方的に、活動の当事者である表現者たちの道具使用といった行為を逐一コントロールするためにあるような計画 planではない。デザインの対象である活動を進行中の表現活動における相互行為を構成する一要素(リソース)として捉えることが重要だと考えられる。情報デザイン分野においては、1980年代以降、情報の道具をデザイン方法は形式化されている。しかし、情報の道具を内包した人の活動を形づくるデザインの方法は明確にはなっていない。本研究の目的は、その方法を明らかにすることである。

そこで、本研究では著者の活動プログラムをデザインした実践を事例に調査し、事例で起きたこととデザインした活動プログラムの相互関係について、状況論的アプローチの枠組みを参照して考察を行った。取り上げたのは、3種類の表現の場である。科学館の来場者による表現活動が生まれた場、ミュージアムの多数の来場者による表現活動が生まれた場、そして病院の看護師による表現活動が生まれている場である。3つめの事例は、表現活動の内容だけでなく、著者が看護師らと共にその表現活動プログラムをデザインすることができた事例としても取り上げ、どのように表現の場が自立するのか?に焦点をあてて考察した。

考察の結果、表現活動プログラムは、次の6つの方法でデザインできると結論づけた。

1) 表現活動を「計画されるもの」と「生成されるもの」で構成された状況的実践として捉えて、計画の中に生成されるものを含める。

2) 表現活動の始まりと終わりを定め、その中で起きる相互行為を個人あるいは他者と共同で行うことに区分け、関係づける。(区分けのデザイン)

3) 表現活動を実施する空間で、そこに起きている相互行為の過程と結果を表現活動に関わる当事者同士あるいは観察者に開示する。(配置のデザイン)

4) 表現者が自身を省察しやすい表現課題と使用する道具のみを設定し、表現する内容は表現者が置かれた状況に委ねる。(知覚の場のデザイン)

5) これらの区分けのデザイン、配置のデザイン、知覚の場のデザインを、当該表現活動が埋め込まれる状況(表現活動の実施時期や場所など)に照らして統合し、微調整し、活動プログラムとして具体化する。

6) 活動プログラムを図面化あるいは文書化して開示し、表現活動を表現者と共に実践する。

加えて、表現活動が自立するためには、これらのデザインの過程を開示すると共に、デザイナーと当該活動の実践者の相対的な関係の中で発揮される、それぞれの力を認め合える状態を作り出すことが重要だという考えを導き出した。これは、上記の表現活動プログラムのデザイン方法ではない。しかし、デザイナーが全てを計画し提供するのではなく、表現者と共に表現活動という状況的実践を構成するという、表現活動プログラムデザインの考え方は、デザイナーが実践者と共同体になろうとする際の方法として応用できる可能性があるのである。

以上の研究結果により、表現活動プログラムをデザインする方法とは、デザインされた計画の中に、表現者によって生成されるものが含まるという認識を基盤として、デザインの共同体になることを伴いデザインされるべき対象であると総括した。
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表現のための活動プログラムをデザインする方法
表現の非専門家たちが表現の場をつくることを事例に

小原 真衣子