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衣服と環境の同化

清水 千晶

審査委員:
長濱 雅彦 藤﨑 圭一郎 山崎 宣由 橋本 和幸 中野 香織

  衣服はそれ単体では存在せず、環境や歴史的背景、宗教、社会問題等、様々な事象によって変化する。
 18世紀後半に登場した当時の貴族のファッションリーダーだったマリー・アントワネットは財力をいかし、その地位を誇示するために衣服によって他者との差別化を図った。彼女のファッションスタイルは異化であると言える。しかし、衣服は常に異化の機能をもつ存在というわけでない。フランス革命以降、時代は産業革命へと移行する。ミシンの登場により、衣服はより簡略化される。日本でも人気の高いデザイナー、ココ・シャネルはシャネルスーツを生み出し、女性をコルセットから解放した。また戦争による物資の不足から、男性の衣服用に開発されたジャージーを女性のスーツに使用した。孤児院で育った彼女は、貴族の華美な装飾を嫌った。誰もがより自由にファッションを楽しめるようになった。また、彼女のデザインする衣服はシンプルで動きやすいものだったため、戦火から逃れる上でも最適だった。現在の衣服にも通じるシャネルの衣服は、貴族社会にとっては、当初、異化の機能を持つ存在だったが、時代の変化によって、目新しいものではなくなる。彼女のデザインする衣服は現代社会へと同化し、階級への意識を薄れさせていく要因の一つとなった。
 現代では人は様々な衣服を着用することが許されるようになったが、それでもなお同調意識や閉塞感など不可視なバリアによって自由に衣服を着用することができないこともある。その場合、衣服を用いて他者と同化することにより他者からの攻撃に耐えることができる場合もあれば、自己のアイデンティティを表すことができる場合もある。
 本研究では、衣服の同化の部分に着目し、ジェンダーやメディアとの関係、自然環境や今日の人権問題において衣服が置かれている状況など過去から現在へと歴史の中で様々に変化し続けてきた衣服について多角的に考察し、自身の作品へと発展させる糸口を探る。
デザイン

衣服と環境の同化

清水 千晶