ジェネラティブアートをベースとする芸術表現教育のためのオーディオ・ビジュアル創作システムの開発と構成主義に基づく創作ワークショップデザイン
濱野 峻行
本研究の目的は、デジタルメディア特有の芸術創作手法を児童期及び青年期の教育に活用し、創造的循環を体験させることで、創造的思考の養成とアートを通じたコミュニケーションの促進を図る教育の一方法を示すことである。その実践として、デジタルメディアの特徴的な表現方法の一つである「ジェネラティブアート」(Generative Art)を児童期及び青年期の芸術表現教育に活かすべく、オーディオ・ビジュアル創作システムの開発やそれを用いたアート創作ワークショップのデザインと実施を通して、デジタルメディアによる新しい芸術表現教育のあり方を探求した。
芸術創作という行為を継続して円滑に行うには、個人が表現のための道具(ツール)についてより良く習熟しながら表現の試行と美的判断を繰り返すこと、そして他者との協同においては互いの関わりを通して知識や感性を繰り返し高めていく過程が要になると考えられる。これらの個人レベルと集団レベルの繰り返し、つまり「創造的循環」の様態について詳細に検討し実際の教育活動につなげることで、芸術表現教育の発展に寄与できると考える。
本研究ではこの創造的循環の検討を軸に据えて芸術表現教育の新しい学びのあり方を探るため、デジタルメディアの技術を活用した創作の環境づくりと教育活動の実践を行った。そこではデジタルメディアの特徴を有効に活かすため、自律的な表現の生成及び表現のゆらぎを生むことを特徴とするジェネラティブアートを表現手法として採用した。ジェネラティブアートはアルゴリズムやルールに従い自律的に表現が生成されていく過程を含む創作の一手法であり、表現のゆらぎにより創造的循環により学習効果を高める働きを生むことが期待される。またジェネラティブアートにはアルゴリミックアートの性質を併せ持つものも多く、知識や概念のモデルとして抽象化して組み合わせることによって後述の構成主義的な学びによる新たな意味の獲得に結びつく性質があると考えられる。
ジェネラティブアートを用いた創作の学習については詳細な検討を行うため、心理学者のピアジェを代表とする「構成主義」(Constructivism、「人間の知識は既に持ち合わせている知識を元にして主観的に構成される」という立場、ロシア構成主義や国際関係学で言われるものとは文脈を異にすることに注意)の観点からジェネラティブアートの創作過程を分析した。構成主義はそれまでの行動主義や認知主義としばしば比較され、学習者自身が自らの知識を基に新しい知識を主体的に構成し、更に学びの共同体の中の相互作用の中で学びを深めていくことを基本とする。この教育観は個人・集団を問わず作ることを通した学びという点で芸術教育で親しまれてきたものであり、プログラミング教育においても抽象的概念をコンピュータとのインタラクションによって具体的思考に転化させられるという点で支持されている。本研究では、構成主義的教育観が個人・集団両レベルの創造的循環とどのように関わりがあるかについて検討した。
次に上記から得られた知見を基に新しい創作環境作りを模索し、音楽に特化したジェネラティブアートの特徴を活かした教育のためのアート創作プラットフォーム(創作のためのアプリケーション及びワークショップ実施のためのシステム)「MUCCA(ミュッカ)」を開発した。このシステムは児童でも視聴覚の素材を組み合わせた直感的な創作が可能なアプリと、ワークショップ会場で協同制作や演奏(アンサンブル)を行うワークショップシステムから成る。
そしてこのシステムを活用した教育の実践として、小学生から大学生までを対象とし構成主義的教育観に基づいて設計したワークショップを複数回実施して効果を評価した。ワークショップではビデオ記録やワークシートなど様々な形でのドキュメンテーション(記録)を取り、個人および集団レベルでの創造的循環がどのように発生していたかについて観察を行い評価した。その結果、個人レベル及び複数人の間における創造的循環が観察され、ジェネラティブアートを活用した創作支援は構成主義的な学びのあり方に基づく芸術創作教育において効果的な手段であることが示唆された。
社会全体の教育に関する時局を鑑みると、2017年現在ICT教育やデジタルメディアを使った芸術創造教育に対する関心は高まりを見せている。しかしデジタルメディアの特質や学習者の認知過程まで深く考慮し、理想の学びを追求した教育モデルは必ずしも多いとは言えない。ここにも本研究の成果すなわち構成主義的教育観に沿って自発的に作ることを通した学びが発生するようなフィールド作りの活用可能性があると言え、プログラミング教育やデジタルメディアを用いた芸術教育への応用可能な方法論になり得ると考える。
芸術創作という行為を継続して円滑に行うには、個人が表現のための道具(ツール)についてより良く習熟しながら表現の試行と美的判断を繰り返すこと、そして他者との協同においては互いの関わりを通して知識や感性を繰り返し高めていく過程が要になると考えられる。これらの個人レベルと集団レベルの繰り返し、つまり「創造的循環」の様態について詳細に検討し実際の教育活動につなげることで、芸術表現教育の発展に寄与できると考える。
本研究ではこの創造的循環の検討を軸に据えて芸術表現教育の新しい学びのあり方を探るため、デジタルメディアの技術を活用した創作の環境づくりと教育活動の実践を行った。そこではデジタルメディアの特徴を有効に活かすため、自律的な表現の生成及び表現のゆらぎを生むことを特徴とするジェネラティブアートを表現手法として採用した。ジェネラティブアートはアルゴリズムやルールに従い自律的に表現が生成されていく過程を含む創作の一手法であり、表現のゆらぎにより創造的循環により学習効果を高める働きを生むことが期待される。またジェネラティブアートにはアルゴリミックアートの性質を併せ持つものも多く、知識や概念のモデルとして抽象化して組み合わせることによって後述の構成主義的な学びによる新たな意味の獲得に結びつく性質があると考えられる。
ジェネラティブアートを用いた創作の学習については詳細な検討を行うため、心理学者のピアジェを代表とする「構成主義」(Constructivism、「人間の知識は既に持ち合わせている知識を元にして主観的に構成される」という立場、ロシア構成主義や国際関係学で言われるものとは文脈を異にすることに注意)の観点からジェネラティブアートの創作過程を分析した。構成主義はそれまでの行動主義や認知主義としばしば比較され、学習者自身が自らの知識を基に新しい知識を主体的に構成し、更に学びの共同体の中の相互作用の中で学びを深めていくことを基本とする。この教育観は個人・集団を問わず作ることを通した学びという点で芸術教育で親しまれてきたものであり、プログラミング教育においても抽象的概念をコンピュータとのインタラクションによって具体的思考に転化させられるという点で支持されている。本研究では、構成主義的教育観が個人・集団両レベルの創造的循環とどのように関わりがあるかについて検討した。
次に上記から得られた知見を基に新しい創作環境作りを模索し、音楽に特化したジェネラティブアートの特徴を活かした教育のためのアート創作プラットフォーム(創作のためのアプリケーション及びワークショップ実施のためのシステム)「MUCCA(ミュッカ)」を開発した。このシステムは児童でも視聴覚の素材を組み合わせた直感的な創作が可能なアプリと、ワークショップ会場で協同制作や演奏(アンサンブル)を行うワークショップシステムから成る。
そしてこのシステムを活用した教育の実践として、小学生から大学生までを対象とし構成主義的教育観に基づいて設計したワークショップを複数回実施して効果を評価した。ワークショップではビデオ記録やワークシートなど様々な形でのドキュメンテーション(記録)を取り、個人および集団レベルでの創造的循環がどのように発生していたかについて観察を行い評価した。その結果、個人レベル及び複数人の間における創造的循環が観察され、ジェネラティブアートを活用した創作支援は構成主義的な学びのあり方に基づく芸術創作教育において効果的な手段であることが示唆された。
社会全体の教育に関する時局を鑑みると、2017年現在ICT教育やデジタルメディアを使った芸術創造教育に対する関心は高まりを見せている。しかしデジタルメディアの特質や学習者の認知過程まで深く考慮し、理想の学びを追求した教育モデルは必ずしも多いとは言えない。ここにも本研究の成果すなわち構成主義的教育観に沿って自発的に作ることを通した学びが発生するようなフィールド作りの活用可能性があると言え、プログラミング教育やデジタルメディアを用いた芸術教育への応用可能な方法論になり得ると考える。
- 審査委員
- 古川聖 伊藤俊治 たほりつこ 茂木一司
ジェネラティブアートをベースとする芸術表現教育のためのオーディオ・ビジュアル創作システムの開発と構成主義に基づく創作ワークショップデザイン
Inter-Media Art