東京藝術大学博士審査展公式サイト2015

WORKS

/ Japanese Painting

水の循環 ―畏敬の風景―

菅原 道朝

審査委員
●齋藤典彦(日本画科教授)、◯佐藤道信(芸術学科教授)、◎関出(日本画科教授)、手塚雄二(日本画科教授)、齋藤典彦(日本画科教授)
 水は、これまで私の制作において主要なモチーフだった。私にとって水を描く行為は、畏怖を感じる自然と交感し、一体化することである。本論文では自作品を挙げ、フィールドワークから制作への手法を中心に論述したい。 
 水は無色透明でかたちを自在に変化させる、不思議でとらえどころの無いものである。
古来より人々の思索の対象とされ、古代ギリシアの哲学者タレスは世界の根源を水とし、中国の老荘思想でも水は最上の善なる存在とされた。様々な意味を付与されてきた水について、私は主に「循環」という意味から捉えている。それを自身の作品に描くことは、様々な季節や時間帯の素描を通じて蓄積された水の心象風景の総体を、一枚の画面に集約させることである。
 また水を描く動機としては、「畏敬」という感情が重要な要素となっており、身を正すような畏怖や畏敬を感じる場所、具体的には海や滝などを作品に描いてきた。本論文では、その作品化について、「異界」「境界」「崇高」「信仰」という視点から考察したい。
 構成は以下の通りである。 
 第1章「水の循環」では、第1節「水の記憶」で、自身の出自と原風景が制作の出発点となっていることを示す。また、日本各地へのフィールドワークと描く場所の選択、素描の手法を示し、対象との一体化に至る過程を述べる。次いで第2節「循環と変容」で、水の循環が生み出す風景として川・水田・空を考察する。
 第2章「畏敬の風景」では、第1節「異界と境界」で、陸と海の間の境界性、異界性について、補陀落渡海やニライカナイといった事例を挙げ、自作品に託した異界イメージとの関係を考察する。次に第2節「信仰の場」で、那智の滝を中心に、信仰の対象となってきた場のイメージについて検証する。そして、改めて故郷の歴史を振り返り、生活のなかにあった信仰について述べる。
 第3章「自作品における水」では、第1節「制作過程の変遷」で、岩絵具主体の画面に、徐々に墨を併用するようになった技法の変化について考察する。また、自作品の主要な色彩として、青と黒を使用する理由を述べる。そして第2節「水を描く」で、提出作品について解説する。
 「おわりに」では、本論文の総括と今後の方向性を示す。

「水の痕跡」

「水の痕跡」

「水の痕跡」

「水の痕跡」

「水田の風景」

「水田の風景」

菅原 道朝
略歴
2011年3月 東京藝術大学美術学部絵画科日本画専攻卒業
2013年3月 東京藝術大学大学院美術研究科絵画日本画研究分野修了