本論文では、工芸および陶芸分野における「装飾」と「造形」の特徴と可能性を再考し、両者に内在する歴史的文脈や、文化的影響、そして作家個々人の意思や概念などの様々な側面に目を向け、空間における「装飾と造形の相互関連性」の重要性を提示する。
私が使用する「装飾」と「造形」の二語には、一般的な意味よりも、より限定された独自の定義が存在している。人間の根源的な欲求の一つである「装飾」とは、「自己を認識する行動」であり、「世界と自己との関係性を構築する行為」、つまりアイデンティフィケーションとしての側面から発生している、と定義する。そして「造形」とは、「概念や意識などの無形物を可視化する」行為そのものと定義する。両者の関連性を深く考察した結果、および自らの創作活動の体験から、私はこれらの行為のなかに、人間の意識や概念が秘められている点に特に注目している。同時に、それらは「複合的な感覚」によって発現する性質のものである。ここで言う「複合的な感覚」とは、素材が持つ固有の特性と、作家各々が抱く心情や創造性、感性や視点などを自覚的に結び付け、表現の理路を獲得していく際に形成される、唯一無二の感覚なのである。美術・工芸領域の「装飾」と「造形」を考察する場合、表層的な要素にのみ注目するのではなく、その背後に存在する「人間」の存在を見つめ、「身体」と「精神」の感覚が結びつく関係性を意識しなければ、その本質を見失ってしまうのである。
ゆえに、現代の作家である自身が、空間に展開する装飾と造形の相互関連性を研究する真意とは、工芸作品の生成原理と自身の感覚とをより密接に関連付け、共鳴させながら、独自の「表現言語」を導き出す試みなのである。
イギリスの大学、大学院に留学していた当時、私はそうした認識に基づいた感覚の形成現象を「マテリアル・アウェアネス」(Material Awareness)と定義し、以来、自身の作品制作における主要なテーマとして位置付けてきた。この概念は、美術・工芸の作業工程において欠かせない要素であり、特に、工芸表現における根本原理を成すものの一つである。
作家は、表現媒体である素材を扱うプロセスにおいて、両者の関わりをはっきりと認識し、さらに知覚や触覚といった潜在的な感覚と呼応させることで、独自の「複合的な感覚」、つまりマテリアル・アウェアネスを形成している。私の博士後期課程における作品制作および研究では、それらを自覚的に捉え直し、実践的な装飾と造形理論として展開、発展し得る可能性について論究するものである。装飾を単なる表層表現と限定せず、立体構造を組織する一因子として扱うことで、美術・工芸における可能性を大いに広げ、発展し得ると確信しているのである。
第一章では、陶芸分野における装飾の精神部分に焦点を当て、意識や思想といった心情概念が、いかに造形へと発展し、表現されるのかを論じる。人間が装飾と造形を表現として獲得する過程には、個人の「認識力」や「アイデンティティ」の形成が、非常に重要な役割を担っている。装飾と造形は、共に「視覚言語」および「表現言語」としての性質を有しており、自身や世界をいかに認識するかに端を発する。つまり抽象概念を視覚化する際のアプローチである。特に、陶芸領域においては、粘土という表現媒体を通して作者自身のマテリアル・アウェアネスが投影され、相互に影響し合う関係性が成立しているのである。
第二章では、総合的な造形における組織として「模様」を認識していた陶芸家、富本憲吉の観点に着目し、装飾が立体を構成する要素の一つとして、いかに存在し、機能しているかという点を考察する。装飾は、表面に見えている部分のみで完結しているものではなく、立体構造を特徴付け、「装飾から造形へ」そして「造形から装飾へ」と、相互に発展・影響し合う美術・工芸理論として発展し得るものである。装飾が造形に及ぼす影響を多角的に分析し、立体要素としての性質を論じる。
第三章では、博士後期課程における本研究が、いかなる背景と視点によって考究されているのかを明らかにするため、自身の根本思想と観点に大きな影響を及ぼした自身のイギリス留学経験やその経緯、そして芸術家としての自意識について論述しながら、過去の作品制作研究および活動内容の「再文脈化」を試みる。イギリスで「セラミックス」を学んだ私は、日本に帰国後、東京藝術大学の「陶芸」の世界で、作品制作と研究を継続してきた。その際、私はこれまでの表現手法はもとより、自身のアイデンティティまでをも再考する必要性を実感してきた。それは、一般の日本人学生とも、海外留学生とも異なる経歴を持つ自分が、これまでに培ってきた思想や価値観を、日本の「陶芸」という文脈上でいかに再定義するのか。そして、精神性や象徴性、アイデンティティといった要素を、日本の美術・工芸の世界や表現の中に、いかにして関連付けるのかを探求する道のりでもあった。研究主題である「装飾と造形の相互関連性」を論究するにあたり、そうした一連の「再文脈化」は、自作品と研究における核心部分を考察するうえでも、常に必要不可欠な要素として位置づけられてきたのである。
第四章では、「繋がり・連なる形態」の表現に、三次元、つまり空間に展開する装飾と造形の相互関連性を体現する可能性を見出すに至った過程を叙述する。博士審査展提出作品「繋連」が完成するまでの試作品や、ドローイングなどに代表されるヴィジュアル・リサーチ、そして使用した材料や技法などについても言及しつつ、その背景となるコンセプトや制作意図を明らかにする。
私が使用する「装飾」と「造形」の二語には、一般的な意味よりも、より限定された独自の定義が存在している。人間の根源的な欲求の一つである「装飾」とは、「自己を認識する行動」であり、「世界と自己との関係性を構築する行為」、つまりアイデンティフィケーションとしての側面から発生している、と定義する。そして「造形」とは、「概念や意識などの無形物を可視化する」行為そのものと定義する。両者の関連性を深く考察した結果、および自らの創作活動の体験から、私はこれらの行為のなかに、人間の意識や概念が秘められている点に特に注目している。同時に、それらは「複合的な感覚」によって発現する性質のものである。ここで言う「複合的な感覚」とは、素材が持つ固有の特性と、作家各々が抱く心情や創造性、感性や視点などを自覚的に結び付け、表現の理路を獲得していく際に形成される、唯一無二の感覚なのである。美術・工芸領域の「装飾」と「造形」を考察する場合、表層的な要素にのみ注目するのではなく、その背後に存在する「人間」の存在を見つめ、「身体」と「精神」の感覚が結びつく関係性を意識しなければ、その本質を見失ってしまうのである。
ゆえに、現代の作家である自身が、空間に展開する装飾と造形の相互関連性を研究する真意とは、工芸作品の生成原理と自身の感覚とをより密接に関連付け、共鳴させながら、独自の「表現言語」を導き出す試みなのである。
イギリスの大学、大学院に留学していた当時、私はそうした認識に基づいた感覚の形成現象を「マテリアル・アウェアネス」(Material Awareness)と定義し、以来、自身の作品制作における主要なテーマとして位置付けてきた。この概念は、美術・工芸の作業工程において欠かせない要素であり、特に、工芸表現における根本原理を成すものの一つである。
作家は、表現媒体である素材を扱うプロセスにおいて、両者の関わりをはっきりと認識し、さらに知覚や触覚といった潜在的な感覚と呼応させることで、独自の「複合的な感覚」、つまりマテリアル・アウェアネスを形成している。私の博士後期課程における作品制作および研究では、それらを自覚的に捉え直し、実践的な装飾と造形理論として展開、発展し得る可能性について論究するものである。装飾を単なる表層表現と限定せず、立体構造を組織する一因子として扱うことで、美術・工芸における可能性を大いに広げ、発展し得ると確信しているのである。
第一章では、陶芸分野における装飾の精神部分に焦点を当て、意識や思想といった心情概念が、いかに造形へと発展し、表現されるのかを論じる。人間が装飾と造形を表現として獲得する過程には、個人の「認識力」や「アイデンティティ」の形成が、非常に重要な役割を担っている。装飾と造形は、共に「視覚言語」および「表現言語」としての性質を有しており、自身や世界をいかに認識するかに端を発する。つまり抽象概念を視覚化する際のアプローチである。特に、陶芸領域においては、粘土という表現媒体を通して作者自身のマテリアル・アウェアネスが投影され、相互に影響し合う関係性が成立しているのである。
第二章では、総合的な造形における組織として「模様」を認識していた陶芸家、富本憲吉の観点に着目し、装飾が立体を構成する要素の一つとして、いかに存在し、機能しているかという点を考察する。装飾は、表面に見えている部分のみで完結しているものではなく、立体構造を特徴付け、「装飾から造形へ」そして「造形から装飾へ」と、相互に発展・影響し合う美術・工芸理論として発展し得るものである。装飾が造形に及ぼす影響を多角的に分析し、立体要素としての性質を論じる。
第三章では、博士後期課程における本研究が、いかなる背景と視点によって考究されているのかを明らかにするため、自身の根本思想と観点に大きな影響を及ぼした自身のイギリス留学経験やその経緯、そして芸術家としての自意識について論述しながら、過去の作品制作研究および活動内容の「再文脈化」を試みる。イギリスで「セラミックス」を学んだ私は、日本に帰国後、東京藝術大学の「陶芸」の世界で、作品制作と研究を継続してきた。その際、私はこれまでの表現手法はもとより、自身のアイデンティティまでをも再考する必要性を実感してきた。それは、一般の日本人学生とも、海外留学生とも異なる経歴を持つ自分が、これまでに培ってきた思想や価値観を、日本の「陶芸」という文脈上でいかに再定義するのか。そして、精神性や象徴性、アイデンティティといった要素を、日本の美術・工芸の世界や表現の中に、いかにして関連付けるのかを探求する道のりでもあった。研究主題である「装飾と造形の相互関連性」を論究するにあたり、そうした一連の「再文脈化」は、自作品と研究における核心部分を考察するうえでも、常に必要不可欠な要素として位置づけられてきたのである。
第四章では、「繋がり・連なる形態」の表現に、三次元、つまり空間に展開する装飾と造形の相互関連性を体現する可能性を見出すに至った過程を叙述する。博士審査展提出作品「繋連」が完成するまでの試作品や、ドローイングなどに代表されるヴィジュアル・リサーチ、そして使用した材料や技法などについても言及しつつ、その背景となるコンセプトや制作意図を明らかにする。