漆芸形象表現による 木の生命

〝漆〞‧うるし〞とは、漆の木より採取された樹液を精製し塗料よしたものであり、石器‧縄文時代に遡る歴史を経て、今日に受継がれてまいりました。漆とは漆樹の樹皮に切込みを入れ、「漆液溝」からかき集めた後生成してできた漆液は浸透力があり漆工芸にとって時間の累積が目を奪う漆の色彩の魅力を引き出す。漆は液体の状態から乾いて固まった後堅い漆膜を作る。漆膜は防腐防水の物理的特性を持ち、器物やその素地を保護し千年経っても壊れない状態にする。
「桼」は木、水,人という字から成り、人と漆樹と漆液の関係を表している。
漆の木は、世界中に約600種以上もあるといわれており、その大部分は東南アジアに多く分布している。漆の樹は日光のエネルギーを使い、光合成により、酸素を放出するだけではなく、天然樹脂塗料の樹液を作る。葉が茂って光合成の活動が盛んになる夏の季節に、漆の樹の幹の内皮に人為的つけられた傷から樹液を掻き取り、精製して作ったものが、環境にやさしい、天然樹脂塗料の漆ある。ウルシの木はアジア諸国にあります。
樹木の形はさまざまである。しかし、見る者にわざわざ上から下まで視点を移動させるような形をしたものは少ない。樹木はその成長において常に上に向かって枝を伸ばし葉を広げていくが、地中に食い込んだ根は常に下に向かって伸び、しっかりと地面を掴んでいる。枝幹は力強く天に向かって伸び、更には盤根錯節と這い回り、地盤を打ち固めている。樹木が人間にもたらす影響と貢献を理解し、樹木の生長の様子、生長環境、生長紋理、経済価値などの専門知識と文化はこの研究の発展に有益です。そしてさらに漆芸樹造形と形象作品を作る時の造形構想と図案設計および作品内容の起源の参考と根拠になります。

木と漆の対話

色漆によって文様をつくることもできるが、単色の黒漆によっても可能である。これは起伏のある不均一な紋をつくった上に金銀箔を貼った後、透漆を塗るものである。色漆を幾層か重ねる方法は、色漆の対比を表すに過ぎないが、寒色と暖色を交互に使用することで、研磨を経た後に文様の筋がはっきりと表れることもある。変塗りは変化に富んでおり、漆を層状に重ね、その都度、研ぎ出すことによって現れる自然の抽象的な変化は絵画的な効果を生じさせる。変塗りの創作のなかで生まれた文様は偶然性と不確定な姿を呈し、並ならぬ生動的な創造行為となり、装飾性と手工芸的な印象をも強く主張するのである。日本の変塗り
日本の変塗り- 変塗り技法は塗り方がきわめて変化に富むところから名づけられ、「武士の魂」とも称される日本刀を収める鞘にこの変塗りがほどこされた。江戸時代には、もっぱら刀の鞘の装飾塗として発展をとげたことから、鞘塗の別名もある。
中国の変塗り-『髹漆録』には「凡一切造物、禽羽、獣毛、魚鱗、介甲、有文彰著者皆象之、兒極模倣之工。巧為天真之文、故其類不可窮也」とあるが、「彰髹」の名はこれに由来する。また「彰」は代表的な変塗りであり、各種材料と工具によって施される。中国の変塗りの最も早い例は両晋南北朝時代であり、輿の装飾に用いられた。宋代にいたって、種々の装飾方法が低廉となり、制作も簡便となり、文様も美しくなり、犀皮が出現し、広く流行した。変塗りは明清代に飛躍的な発展をとげ、刷絲漆、蓓蕾漆、斑紋填漆、綺紋刷など様々な技法の名称が出現した。
台湾の変塗り-台湾では、漆面の上に押捺により不均一な痕をつくり、この面の変化を応用して色漆を多層に塗り重ね、最後に研出して抽象的な木目を表す技法のことを変塗りと呼んでいる。およそ単色の漆面ではなく、表面に木目状の変化を呈する技法の総称となっており、空間を広く、多くの色彩を活発に用いることで発展させ、現代人の求める新しい変化のある創作方向に符号するものとなっている。
本研究は「樹」を核心となし、漆芸技法の変塗りと乾漆技法を結び付け、金属工芸の鉤編手法を漆樹の外形に用い、天然材料の漆を利用して、実用、鑑賞の双方を備えたネックレスを創作した。自然界の物質と材料を用いて各種各様の美術工芸品を創作、運用することにより、漆は独特な風貌と特質を兼ね備え得る。天然材質をよく用いれば、漆芸品に天然素材の美を注入し、精神的な手工業に没頭することを貫くことができる。
台湾工業の産業のひとつひとつは全て工芸の資材であり、美と生活は創作芸術において結合し、生産される。文化と経済は不可分の源に端を発するが、伝統的な固有性を運用し、現代性と実用性に適した材料が選ばれた創作は未来の作品を生み出すことでもあり、本研究の創作展示により、ネックレスを享受することでより多くの人々が素材を慈しみ、素材に習い、自然の資源を見出し、産業製品が社会的効能を発揮し、さらには人々が環境保護に参与することを望みたい。