→デザイン
光が織りなす現象と空気感

 - Phenomena of Light and Atmosphere -

西 毅徳

→審査委員   
鈴木 太朗
 藤崎 圭一郎 橋本 和幸 内原 智史

 私が行なっている表現は〝光の空間〟である。この空間が意味するものは、建築的な要素であって、特に建築が内包する空気感を目指している。この空気感とは、スイスの建築家であるPeter Zumthor(ピーター・ズントー)が提唱する、人間が建築空間に入り込むことで、記憶の中の光景を想起させるという、空間の体験が得られることに深く関わる性質である。私は、この空気感を意識した空間表現を行なっている。私は空気感を表すために自然の光景を想起させており、美しいと思う光景から、私は作品の着想を得ている。
 私が自然の光景を実際に体験して美しいと思う多くの場合、そこには自然光による光学現象が必ず原因として存在している。それは光の反射や屈折といった、光の性質に依るもので、それらが大気の影響によって、劇的な美しい光景を作り出す。このような光の光景で、最も美しいと言われている国がオランダである。私は2018年と2019年実際にヨーロッパへ渡り、自然光が作る光景の違いが本当にあるのか、オランダを始め各国で調査した。その結果、国の占める水の割合と地形、緯度と経度の違いによる温度や湿度が影響し、国によって光景が異なっていることがわかった。少しの条件の差異によって、様々な光景を見せてくれる光学現象に、私は表現の可能性を見出した。また、その調査の中で、自然の光景を美しいと思う感情は、国境を超えたものであると改めて実感した。私は、光景を作り出す光学現象をヒントに、自身の作品世界を表現している。それが〝光の空間〟である。
 この光の空間には、見立てという大事な要素がもう一つある。見立ては、日本庭園で見られる、石立や植栽などによって自然の風景を表現する手法である。例えば、石で鯉を見立てる鯉魚石といったものである。これらは想像性なくして感じられるものではない。私は、この見立てに存在する想像性こそが、自身の表現する世界観に大事な要素と考えている。私がこれまでに制作した作品は、光やアクリル、アルミなどを使って、自然の光景を想像させる光の現象を用いている。これらの作品は、国内外で賞や評価を得ており、著名な多くの人に認められた。これらのことから、私が行なっている空間表現が現代社会にとって求められていることがわかる。私は本論文に於いて、〝空気感〟〝光学現象〟、〝見立て〟の要素を用いることで、自然の美しい光景を想起させる、空間表現の新たな可能性を自身の作品を通して表明する。