→彫刻
ステンドグラス・オブ・ザ・リビングデッド

 -彫刻の舞台-

佐宗 乃梨子

→審査委員   
森 淳一
 布施 英利 小谷 元彦 林 武史      

本論⽂では私がステンドグラス技法を⽤い、ゾンビや神話をモチーフにした彫刻作品を制作している経緯を、私の制作体験を振り返り再考し、⾃作品の彫刻としての構造を考察する。
本論⽂は、以下のプロローグ、3つの章、エピローグで構成されている。
プロローグでは、「イメージ」を⼈間が得てからどのようにそれを発展し、影響を受けてきたか、その物語の始まりを提⽰する。
⼈は様々な分からないこと、知らないことへの恐怖や畏怖をイメージの⼒でわかりやすい⾔葉や物語に変換し⽣きてきた。それが神話であり、物語である。同じように、率直で単純な⾔葉だけでは表現できないものを私は作品にしているようだ。そこには⼀⾒どうでも良さそうなこと、つながりがなさそうな要素がたくさんあるし、時には嘘やこじつけも含まれている。しかしそれは作品を作る上でとても⼤切な要素だ。芥川⿓之介が「時には嘘によるほか語られぬ真実もある」と⾔ったように、嘘が美を作っていることもある。
第1章では、まず私がモチーフにしてきた「ゾンビ」を考察し、私が作品にどのようなイメージと物語を付与しているかを述べる。私はこれまでゾンビ以外にも、胎児、胎盤、体の⼀部など、物質としての⾝体を想起させるようなモチーフを選んできた。それは私が⾝体に対して、物質性を強く感じているからだと考え、「⾝体の物質性」というキーワードをもとに、⾃⾝の幼少期の体験と感覚が⾃作品にどのような影響を与えているかを考察した。そして⽇本初のゾンビ譚とも⾔える古事記のイザナミの物語から、⽇本の⾵⼟が⽇本⼈の宗教観や死⽣観にどのような影響を与え、⾝体感覚を作り出しているかを論じる。
第2章では、私が彫刻の素材として扱っているステンドグラスが物語を提⽰する「舞台」としての役割を果たしていると仮定した上でステンドグラスと光の関係と、舞台との類似性を論考する。ステンドグラスは教会建築の窓として⽣まれ、その役割は宗教的物語のイメージを伝え、神聖な空間を作り出すことにあった。ステンドグラスの表⾯そのものを絵画として楽しむというよりは、その平⾯を通過した光によって作り出された空間を体験する。という要素が強い。それは⼀種の劇場、舞台と⾔えるのではないだろうか。ステンドグラスの窓で覆われた祭壇や彫刻は、舞台装置と役者に⾒えてこないか。
そして、⼀時的なものである舞台を保存し、空間の中に留め置く形で彫刻が成り⽴っていると考える。
第3章は過去の作品から博⼠展提出作品である《youtopia》につながる経緯と、作品形成の過程について⾔及する。ここではより実際的な制作の過程を振り返り、制作をする中で考えたこと、そして⾃⾝の作品がどのように変わってきたか、⾃⾝の彫刻に対する振る舞いを再考する。
エピローグはこれまでのまとめと、今後の展望について⾔及し、本論⽂の締めとしたい。