design

ロボットテクノロジーの応用による“夢”の実現
―買物・物流支援ロボットによる生活創造―

谷口 恵恒

審査委員:
長濱 雅彦 北野 宏明 山崎 宣由 鈴木 太郎

 私は、情緒的ロボットを世に生み出したいと考えている。その鍵となるのがテクノロジー思考とアート思考の融合と考える。テクノロジー思考とは、従来の日本の製造業が得意とする工業製品を中心とした機能的サービスであり、具体的には素材や部品、それらの擦 り合わせや生産技術であるが、それらは量産化され、またアナログから デジタル化されると一気にコモディティ化される。さらに近年急速にテクノロジーのフラット化が進んでおり、特徴を出すことが益々難しい時代になっている。 一方、アート思考とは、人間が本能的に感じる楽しさ、面白さ、美しさなど感性によって生み出される情緒的サービスであり、具体的にはIT やAl、ヒューマン•マシーン•インターフェイスに現れる。そして便利で魅力的なサービスは日常的に使われ必要不可欠になり、いち早く普及した地域でローカライズ化が起こり、国に広がり世界に広がり、市場を占有する強い力を持つ。
情緒的ロボットの創出で鍵となるのが、受動的生活でもなく能動的生活でもない第三の中動的生活という生活シナリオである。中動的生活とは、過度にロボットに依存せず人の自立を促し、便利であるが利便性のみの追求にならない楽しい、人間が中心の暮らしである。特に健康促進を大切に考え、例えば歩くのを手助けし、買い物に出かけるように支援する。人と話す機会や景色を楽しむ機会を提供するといった人がゆとりを持てるように手助けし、人間本来が持っているプリミティブな感性を大切に考えデザインしていくことが重要であると考える。

Mecha×animalメカニマル
私は人型二足歩行ロボットnuvo®、自律移動型音楽ロボッ卜miuro®で人にインパクトを与えるアイコン化デザイを模索し、市販車をベースにしたRoboCar®で実用面を重視した機能化デザインを模索してきたが、物流支援ロボットCarriRo®からその融合を徐々に意識しだし、CarriRo® Deli G1から具体的に取り入れ始め、G2で融合が完結した擬人化デザインとして実装した。宅配ロボットは、これまでの生活空間に存在しなかった、いわば新参者であり、それがこれから人々と生活を共にし、社会に受け入れられるようになるためには人間に近い存在、身近な仲間として受け入れられる擬人化が重要と考えた。
擬人化で参考になるのは、 世界中の幼児から愛されている「きかんしやトーマス」だ。私はこれをメカニカルとアニマルをかけてメカニマルと称した。

Eyes ロボットは目が命
ロボットをデザインするうえでセンシングという目的でも目が重要であるが、人とのコミュニケーションにおいては、目が最も重要であることは言うまでもない。コミュニケーションとしての目を実現させるために、屋外の明るい環境下で視認性が高い高輝度フルカラー LEDを密に並べた表示器を2個フロントに目のように配置した。メッセージは、通常走行、右左折、停止など伝えるべき基本的なことだけでなく、走行しているときでも目の黒目にあたる部分のサイズを大小させてグングンと元気に進んでいるように動的に表現した。また信号で停止している間は、前方に歩行者など人がいることがあるので、目の表情は休んでいる様子を示して、興味を引き付けるように考えた。
特に移動中で重要な狭い道で人とすれ違うようなシーンでは、人にロボットの意思が伝わるようにCarriRo® Deli G2からはアイコンタクトを行い、また補足的に声でお礼を伝えるようにした。例えば、道を 譲る際には「どうぞお先にお通りください」とか、右側によける場合は、「右側によけます」などと目のLED表示器と音声でコミュニケーションを行った。 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと東京大学本郷キャンパスで実験を行ったところ、対面したほとんどの相手の表情に笑顔が見られ、ときにカワイイと声をかけられたりするなど全体として好感が示された。

Voice 目を補完する声
目を補完するコミュニケーション手段として、声も重要と考える。ロボットは4色制作し、それぞれの色に声のキャラクター付を行った。レッドは、ヒーロー的な存在とし、熱血で正義感が強いみんなのリーダー的な役割とした。シルバーは、クールで知的でみんなのまとめ役的な役割とした。イエローは、キュートで明るいみんなのムードメーカー的な役割とした。メタ リックブルーは、ちょっとキザな二枚目で最後の砦的な役割とした。それぞれのキャラクターに合うように、声優を選び、それぞれが発するシナリオを制作した。

Color 色
色については、CarriRo® Deli G1は可愛さと安全上目立つように赤にした。赤の中でも街並みに過度に浮かないように明度を落として落ち着いた色とし、メタリックを入れて高級感を持たせた。親しみやすく環境に調和することを重視して、一般的に家電やパソコン、自動車に使われるような明度、彩度をもったレッドにしたが、実験を通じて周りからの反応から、新しさ、愛くるしさ、存在感が乏しいように感じた。
私はこれまでの工業製品とは違うように、かわいく存在を示していきながら、人々に受け入れられていくような目的で色を選んだ。最終的にCarriRo® Deli G2は、ロボットらしいポップで軽快なレッドとイエロー、そしてクールなメタリックを加えたライトシルバーとブルーを採用した。 彩度、明度ともにあげ、不思議な存在感のあるデザインとした。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスと東京大学本郷キャンパスでレッドとシルバーの実験を行ったが、老若男女問わず、愛くるしい魅力で惹きつけたのは圧倒的にレッドであった。シルバーはハイテク好きな学生、大人、特に男性に人気があった。また実験においてもシルバーは目立ちにくいが建築物に調和していた。 将来的にロボットへの認知が進むとシルバーのニーズも増加すると思える。

Story ムービープロトタイピング
長濱研究室に在籍し知見を得た、アイデアを絵コンテや簡単なアニメにするアート思考のプロセスは、工学出身者としては新鮮であった。ロボットによる生活ストーリーを考えることは、その後の開発を左右する重要なものであるのに、製品開発手法としてこれまで取リ入れてこなかった。アニメーションでストーリーを表現する、こうしたムービープロトタイピング手法は、通常の製品仕様書と違い開発製品の様々な用途での可能性を俯瞰でき、且つ一般的にはバラバラになりがちなエンジニア開発チームをひとつにまとめ、やる気を引き出す効果が見られた。
デザイン

ロボットテクノロジーの応用による“夢”の実現
―買物・物流支援ロボットによる生活創造―

谷口 恵恒