Design

東京エメラルドネックレス計画

金 兌昱

フレデリック・ロー・オルムステッドがアメリカのボストン市にエメラルド・ネックレス公園を設計して以来、独立して存在する緑地ではなく、循環型で連続された緑地の研究と実践は、断続的に続いてきた。オルムステッドの死後、景観生態学の誕生とともに景観連続性という概念が登場し、接続されて循環する緑地はランドスケープ・アーキテクチャーの教科書的な手法となった。都市内の気候調節とヒートアイランド現象の緩和などのための風の道などと一緒に設計されることもある。実践的な領域で見ると、同じ概念により設計されたボルティモアの公園システムに加えてエメラルド・ネックレス自体も、後世のデザイナーによって拡張と発展し続けており、以降、シカゴ市の公園システムと韓国ソウル市の緑地システムにも大きな影響を及ぼした。最近では、ランドスケープ・アーキテクチャーの伝統的な領域であった地面のレベルでのデザインではなく、都市のインフラストラクチャーと結合した新しいタイプのデザインも示されている。ニューヨークのハイラインとロンドンのガーデン・ブリッジなどが代表的であるが、これらの計画も形は異なるがエメラルド・ネックレスの概念を続けたともの見ることができる。本研究では、エメラルド・ネックレスを含め、最新のランドスケープ作品を分析し、景観連続性の概念を都市との関係の中で再考察し、設計の理論的な背景にしようとするものである。
本研究は、東京の都市構造とボストンのエメラルドネックレス計画を統合して、新しい都市環境を設計したことにその意義がある。エメラルドネックレス計画はランドスケープ・アーキテクチャーの父であるオルムステッドが設計した公園であるが、その独特のデザインにもかかわらず、彼が設計したセントラルパークなどの単一の個体として公園に比べるとあまり注目されなかった。オルムステッドはセントラルパークを設計したことや、彼がアメリカに設計した公園は、その意匠として英国の風景式庭園を借用したということは、広く知られた事実である。しかし、オルムステッドが先覚的な視点から都市に関する様々な新しいコンセプトを提案した芸術家としての面もより注目する必要がある。エメラルドネックレス計画は景観生態学という学問と景観接続性という理論が誕生する以前に、独立した島としての緑地ではなく、接続されたネットワークとしての緑地の可能性に注目した先進的なデザインなのである。そして、このデザインは、彼が設計した各公園がチャールズ川の支流によってつながっていったというその立地の環境から出発した。
このエメラルドネックレス計画のコンセプトを東京に適用させることが、本研究の目的である。東京には皇居、明治神宮などの巨大な緑地と新宿御苑、後楽園などの広い庭園、そして上野公園、日比谷公園など多様な形態と大きさの緑地が存在する。つまり景観生態学的にパッチは豊かであるが、これらは組んでくれるコリドーの存在が特にないというのが大きな問題である。荒川と多摩川は東京の郊外にあって緑地との接続点がなく、外堀はほとんどの区間が埋められて、河川としての機能を期待することはできない。この過程で見つけたのが首都高速道路という東京全体に広がっている高架道路の存在であった。首都高速道路は、都市の隅々に広がっている為、様々な空間と出会うが、特に新宿線は明治神宮、新宿御苑、赤坂御所、皇居を通過する為、本研究の最適な対象地であった。そこで本研究の大部分は、首都高速道路新宿線とその周りの空間との関係をデザインするのに費やした。首都高速道路は巨大構造物である為、都市の景観的、物理的な壁として作用している。この存在を周辺領域と地形、ランプなどを介してスムーズに接続することにより、首都高速道路が緑地の連結だけではなく 、人と人、人と緑地を連結させ、東京都心部の接続性を強化するように設計した。
この研究は、エメラルドネックレス計画がそうであるように、独立して単発の閉じられた研究ではなく、接続されて、連続的な開かれた研究を目指す。時間的限界により今回は新宿線のみを対象としたが、首都高速道路都心環状線をはじめ、目黒線、向島線などは、新しい緑のネットワークを構築する媒介体としての可能性が非常に高いので、さらに拡張的な研究も可能だと思う。つまり本新宿線を出発点として、緑地のネットワークが東京の隅々に伸びていくように、また本研究を出発点として、東京や日本の大都市の緑地と高架道路を含めた都市基盤施設を統合することにより、新しい環境の設計に挑戦する研究が続くことを願う。
審査委員
清水泰博 藤崎圭一郎 橋本和幸

金 兌昱

東京エメラルドネックレス計画


Design